巨樹巡礼
武雄の楠(佐賀県武雄市)■Mamiya 7 4.5N/50mm RVPF
福岡展の合間、長崎方面を巡った。
戦後61年、この機会に原爆と戦争、そして平和に対して、
今一度自分なりに見つめる必要に駆られたからだ。
長崎市内を巡るのは20年ぶりのこと。
当時、仕事でさぁっと流し見てしまった被爆の痕跡が重くのしかかる。
訪れたのは8月6日。広島に人類史上初めて原爆が投下された日だ。
晴れ渡る空。じっとしていても汗が溢れ出る。
この春、「少年がいて」という市民ミュージカルにご縁があった。
長崎へ原爆投下後、現場を記録したジョー・オダネル氏という米軍従軍カメラマン。
ミュージカルは彼のたどった軌跡と長崎の写真で構成され、
平和と憲法第9条について考える。
私の役割はオダネル氏の写真をプロジェクターで投影するため、
写真集をスキャンすること。
(勿論、複写の許可は得てのこと)
累々とした被爆者の姿、一瞬のうちに何もかもが破壊しつくされた街。
筆舌しがたい光景を一点一点、丹念にスキャンし、補正してゆく中で、
瞬間、オダネル氏の目線とダブった。
写真集「トランクの中の日本—米従軍カメラマンの非公式記録 」
クマゼミの時雨の中、私は長崎を巡った。
オダネル氏の写真がずっと脳裏に焼き付いている。
彼の写真集の中に爆風で吹き飛ばされ、
一本の柱だけで立っている石鳥居の写真があった。
爆心からおよそ800m、山王神社の二の鳥居で、
今もそのままの状態が保たれている。
被爆直後、ほとんど立ち枯れた状態から奇跡的に芽を吹きかえした楠。
樹木の持つ生命力をこれほど物語る出来事はないだろう。
再び長崎から福岡へ向かう途中、
武雄神社ご神木の大楠に会いたかった。
推定樹齢3.000年。国内で6番目に大きな木だ。
この木の前に立つのは3度めとなる。
奈良県十津川村の玉置神社神代杉とともに、心底畏敬を感じた木だ。
自然界と、そこに潜む目に見えないものに畏れを感じること。
そこから人と命に対する謙虚さが生まれると信じる。
山王神社の楠しかり。武雄神社の楠しかり。
もの言わぬ木々から受け止めなければならないことが、
現代に生きる人間にとってどれほど多いか知れない。
その時の様子は別の機会に書ければと思う。