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atarashism@blog

写真家の日常と表現

堂平天文台・・・91cm反射望遠鏡の勇姿・・・少年のあこがれ

奥武蔵の一角、ときがわ町堂平山(876m)山頂に、日本屈指の天文台がある。

今回、縁あってその天文台を取材することができた。

堂平山周辺から群馬方面を望む。

 

美しいドームが冬の晴天に映える。

*上の二点の写真は2006年1月17日に撮影したもの。

 

取材は深夜、ボランティアスタッフの作業の合間を縫って行った。関東平野の夜景が広がる山頂だが、冬の大三角形が印象的な夜だった。

 

 

堂平天文台は1962年、東京大学東京天文台堂平観測所として岡山天体物理観測所の188cm反射望遠鏡に次ぐ、国内で二番目に大きな91cmの反射望遠鏡を核に建設された。当時の奥武蔵地方はとても星空の美しい観測適所だった。

 

少年の頃、自宅の庭に出て銀河に瞬く星々を眺めては、様々な空想に耽ることが好きだった。悩みごとや、悔しいことがあったときも必ず星を眺めた。そうすることでいつの間にか、悩みも消え、問題も解決し、小さいことでくよくよしている自分がばからしくさえ思えてくるのだった。

中学一年の夏の終わり、初めて月刊天文雑誌を買った。1970年9月5日のことだった。以来10年以上毎月欠かさず買い続けた。その雑誌にも堂平天文台は何度も登場したはずだ。

「日本の天文台藤井旭著に掲載された堂平天文台のドームと91cm反射望遠鏡は僕のあこがれだった。ものすごくかっこいい存在だった。

季節は忘れたが、中三の時だった。天文台の一般公開日、僕は弟を誘って、自宅から20kmあまり自転車をこぎ、堂平山まで登った。夢にまで見たあこがれの天体望遠鏡が目の前にあった。

 

現在、堂平天文台は、ときがわ町が所有、ときがわ町星と緑の創造センター堂平天文台という。さらに運用は堂平天文台観望会倶楽部ボランティアスタッフの献身的な努力によって運営され、春から秋まで毎月観望会が開かれている。

 

 

カセグレン式接眼部のアップ。

 

91cm反射望遠鏡の概要は次の通り。主鏡有効直径914mm、カセグレン式、赤道儀はイギリス式だ。主鏡の焦点距離は直焦点で4,590mm F5、カセグレン合成焦点距離は16,658mm F18となっている。主鏡及び、鏡筒、赤道儀とも日本光学製だ。その他、口径200mmと150mmの屈折望遠鏡がファインダー(ガイド鏡)としてマウントされている。

 

日本光学のプレート。

 

当時、この天体望遠鏡日本光学を始め、多くの日本企業の技術が集められたと聞く。言わば、日本の光学・精密機械の技術の粋ががここにある。

堂平天文台の建設計画は1953年頃から始まったようだ。当時の日本学術学会の熱い思いが政府を動かした。敗戦からわずか8年後のことだ。

 

その頃はまだ軍事産業で腕を磨いた技術者たちの多くが健在だったという。その技術を活かした戦後平和産業の一つの集約として光学技術がある。日本の光学技術は戦前・戦中から世界トップクラスであったはずだ。中でも日本光学はその先端を走る光学メーカーとして主鏡の制作から携わった。堂平天文台の91cmは当時国産最大のミラーだ。

 

敗戦から12年後、僕はこの世に生を受けた。僕の少年時代は、まだまだ戦後の時代だったのだ。そんな思いを重ねながら、しみじみ望遠鏡を眺めていると、当時の人々がこの望遠鏡制作に込めたさまざまな情念までもが感じられてくる。

 

ニコンウェブサイト望遠鏡開発対談「大望遠鏡の開発」参照

 

鏡筒先端部に直焦点のカメラ取り付け部がある。鏡筒基部に主鏡が見えるのがお判りになるだろうか。

 

ボランティアスタッフにより天体写真儀としての性能アップと工夫・改良が重ねられている。近い将来、ここからきっと素晴らしい天体写真の数々が生まれることだろう。

 

天文学の主流はハッブル(大気圏外)、すばる(ハワイ)、そしてペルーアンデスの高所に移行した。高度な研究機関としての堂平の役割はとうに終えている。

しかし、身近な天文台として、多くの市民に果たす役割はこれからも大きいだろう。

どうだろう、この勇姿。かっこいいと思ってしまうのは、僕らの世代のいわゆる天キチと呼ばれた人だけだろうか。この91cm反射望遠鏡と、ドームの魅力は尽きない。

 

3月からは一般に向けた天体観望会が12月までおおむね月に二回づつ催される。詳細はこちらそのため観望会までには副鏡を取り付けなければならない。この望遠鏡を直焦点写真儀として活用できるのは、ほんの僅かな期間中、しかも月光の影響のない晴天時に限られる。そのタイミングを縫って、それぞれの仕事の合間、ボランティアスタッフのメンバーが任務を遂行している。当然、作業は深夜、徹夜になることだろう。そしてそのまま翌朝仕事に向かうこともあり得る。

 

日本屈指の歴史的な堂平天文台は、今このような方々によって守られている。

 

未明、薄暮が迫ったころ、スタッフの方々のご厚意でヘラクレス座のM13球状星雲に向け、持参したカメラを装着させて貰った。シーイイングの状態にもよるだろう。星像はピント精度、ガイド性能など、まだまだ改良の余地があるとのことだが、91cmの分解能はさすがとしか言いようがない。

91cm反射望遠鏡・直焦点 F5 カメラボディ NIKON D200 ISO800 露出123秒

今回の取材で益々この望遠鏡が気に入ってしまった。次回、機会があればもっとしっかりとこの望遠鏡と向き合ってみたい。

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